TRIO JR-60 通信機型受信機の修理 -- その12020年05月08日 15:44

JR-60とは、1960年代初頭、トリオ(現在のKenwood)からアマチュア無線家向けに発売された、 デラックスな高一中二スーパー受信機です。 以前から機会があれば使ってみたいと考えていたところ、 運良く、手ごろな価格で入手することができました。

さて、この受信機は50年以上前のものですが、外観はさびや塗装のはく離が殆どなく非常に良い状態でした。 ケースからシャシーを引き出し内部を確認すると、シャシーの一部にさびが見られますが、 電解コンデンサのパンクもなく、3500KHzのマーカー用水晶も付属しており、一部AVC回路に改造が 施されていましたが、とても状態が良い物でした。

回路は、この通りです。クリックすると拡大します。(「電波実験アマチュア無線回路図集」より)

早速、ほこりを拭き取り、真空管の汚れを落とし、ヒューズを確認した上で電源を入れてみることに。 ACプラグの根元が極端に曲がっているので、用心のためACプラグを新しい物に交換し電源をON。 スピーカーからは、何も聞こえません。 真空管のピンの電圧を測ってみることに。不良発見。出力管6AQ5のG1に+8V程度の電圧が出ています。 これでは、せっかくのカソードバイアスが効きません。 電圧増幅管6AQ8のPと6AQ5のG1間のカップリングコンデンサ(オイルコン)の不良に間違いありません。 手持ちの物と交換したところ、今度は、ものすごいブー音。AFボリュームを絞り きっても変化がありません。6AQ8を抜いても変わりません。平滑回路のコンデンサの容量抜けと見当をつけ、 手持ちのコンデンサを平滑回路のコンデンサに並列に接続してみると、ブー音はなくなりました。 その他、この時点で発見できた不具合と対処は以下の通りでした。

現象 原因 対処
無音
6AQ5のG1に+8V
カップリングコンデンサのリーク オイルチューブラコン0.005uFを同等のセラミック0.005に交換
ブー音
ボリュームを絞りきっても変化なし
平滑回路のコンデンサー容量抜け 同等のブロックコンデンサーに交換
音声出力が小さめ 6AQ8のカソードのバイパスコンのリーク 手持ちのケミコン33uFに交換
音声出力が小さめ 6AQ5のカソードのバイパスコンのリーク 手持ちのケミコン33uFに交換
AFボリュームを絞っても音声が聞こえる AFボリュームに残留抵抗あり ボリューム500K(A)を100K(A)に交換(500K(A)が無かった)

音声回路がほぼ正常になったので、テストオシレーターの信号を入れIFTの調整を行いました。 Sメータでピークを取ろうとしましたが、メータの動きがふらふらしていてとれません。音声の出力を 頼りにピークを探すと、ピークの時に非常に歪みます。Sメータの動きが怪しい原因は分かりません。 もしかしたら改造してあるAVC回路が悪さをしていることも考えられます。改造された回路は、 IF信号を取り出しダイオードで倍電圧整流してAVC電圧を取り出しているようです。時定数も 別途コンデンサーを追加してあるようです。元の持ち主の改造を尊重して改造を活かすことも考えましたが、 改造の意図が分からないのでやむなく、オリジナルに戻しました。こうしたところ、Sメータの動きが 信号強度に追従するようになり、IFTの調整が楽になりました。調整を進めると、S-メータのピークに合わせると 音声出力に歪みが発生します。RFボリュームを少し絞ると歪みがなくなります。このRFボリュームは、RF増幅の 6BA6とIF増幅一段目の6BA6のカソードに直列に入っています。オシロスコープをIF増幅二段目の入力に つないで信号を確認したところ、歪みはIF増幅一段目の6BA6で発生しているのが確認できました。 一時しのぎですが、IF増幅一段目の6BA6のカソード抵抗を大きくして歪みを回避しました。

RFボリュームの残留抵抗を確認したところ、やはり無視できないほどの抵抗値がありましたので、 ボリュームを交換しました。

現象 原因 対処
Sメータのピークが取れない AVC回路の改造 オリジナルに戻す
音声出力が歪む IF増幅一段目の6BA6でクリップが生じている IF増幅一段目の6BA6のカソード抵抗を1Kに交換
RFボリューム 残留抵抗あり 10K(C)を10K(B)に交換

この状態で、IF増幅段の調整を終えました。簡易なロングワイヤーをつないでみると、中波帯の 放送を弱いながら受信することができましたので、コイルパックの調整に移りました。

調整しながらトラッキングの状態を見てみると、比較的良く合っているようでしたが、既知の 放送局を受信してみると、ダイアルとずれが出てきました。トラッキングの調整点でテストオシレーター の発信周波数を計ってみるとズレてました。大きいところでは100KHz以上ズレてました。テストオシレータの 発信周波数を確認しながら調整をすることに。が、感度にばらつきがありますし、全体的に感度が悪いです。

ひとまず調整を区切りとし、その他の不具合の確認をして見たところ、以下のような不具合が見受けられました。

現象 原因 対処
音声の明瞭度が悪い。鼻づまりのような音声 AVC回路の時定数コンデンサーの容量抜け 0.05uFを交換(丁度良い物がなかったので、0.01uF 5コをパラにした)
RFボリュームを最大にすると、音声出力が歪む AVC電圧の不具合かな?
バンド内に感度のムラが有る

ここまでで、コンデンサーの不具合が多いので、オイルコンデンサーと電解コンデンサーを 交換することとしました。

使用箇所 原因 対処
AM検波の後のカップリングコンデンサー リークの可能性あり 0.005uFを手持ちのセラコンと交換
CW-SSB検波後のカップリングコンデンサー リークの可能性あり 0.005uFを手持ちのセラコンと交換
CW-SSB検波6BE6のバイパスコンデンサー リークの可能性あり 10uFを手持ちの33uFのケミコンと交換
出力トランスの一次側のシャントコンデンサ リークの可能性あり 0.005uFを手持ちのセラコンと交換
6BE6のデカップリングコンデンサー 容量抜けの可能性あり 手持ちのケミコンと交換
6AQ8のデカップリングコンデンサー 容量抜けの可能性あり 交換(パーツ待ち)
低圧電源の平滑コンデンサー 容量抜けの可能性あり 交換(パーツ待ち)

現時点で、その他の不具合や動作が確認できていないところがあります。

不具合・未確認点 予想原因 対処
Q-マルチをONにすると無音になる Q-マルチ回路とIFTの間にあるコンデンサー0.05uFのリーク 交換(パーツ待ち)
Dバンドのトラッキングが追い込めない
6mバンドのクリコンの調整ができていない

不足しているパーツは発注済みです。パーツが届くまでの間、不具合の原因を 探ります。また、参考になる情報を探します。

TRIO JR-60 通信機型受信機の修理 -- その22020年05月30日 08:10

製作したクリスタルオシレーター(下)と購入した周波数カウンター(上)

修理を続行するにあたり、道具のお膳立てすることにしました。一つ目は、IFTの調整用に クリスタルオシレーターを製作しました。手持ちの部品で作成したため不格好です。トラッキングを 取るのに手持ちのテストオシレーターでは役不足なので局発周波数を直接測定するための 周波数カウンターを購入しました。IF周波数でオフセットを計算できる物です。

交換用のパーツが届く間に、JR-60の情報を調べたところ NoobowSystems Lab.のJR-60のレストア記事に、興味深い記述がありました。

まず、IFTには2つの同調点があることです。

二つ目は、コンバーター管6BE6の変換ノイズが大きいことです。

交換用パーツが届き交換しました。先の2つの点を確認してみます。

IFTの同調点を確認してみました。IFTの上のコアを一番上の位置に下のコアを一番下の位置に 移動した上でチューニングすると、上のコアには確かに2つの同調点がありました。いずれの同調点でも 出力は同じぐらいになります。コアが抜けている位置が正しいと当たりをつけ調整を進めました。もちろん、 自作のクリスタルオシレーターを使ってです。調整の結果、以前よりも大きな検波出力を得られるようになり、 また、同調点で起きていた歪みもなくなりました。おそらくですが、IFTのチューニングがズレていたので、 充分なAVC電圧が発生せずIF増幅段のゲインを殺せなかったのでしょう。IF増幅段の6BA6のカソード抵抗を 元に戻してみましたが歪みは感じられませんでした。次いで、周波数カウンタで局発周波数を測定しながら トラッキング調整を行いました。Eバンド(10.5Mhz~30Mhz)はトラッキング調整を追い込めませんでした。 ピストントリマを調整するのですが、容量を増す方向に調整していくと発信が停止してしまうのです。 いろいろ試したのですが、解決できませんでした。

二つ目の変換ノイズですが、確かにアンテナ端子をグランドに落としても耳障りなノイズは消えません。 受信感度が悪く感じられます。実際の放送を受信するとノイズが中に放送が飛び出しているように 聞こえます。ノイズ対策は将来の課題としました。

調整を一通り終わらせましたが、課題も残りました。

  1. 変換ノイズが多く、受信感度が悪く感じる。
  2. Qマルチがうまく働かない。
  3. Eバンドのトラッキングが追い込めない。
これらは、もう少し使い込んでから対応しようと考えています。

こちらは、取り外したパーツです。

当初の製作から約50年が経過していることを考えると、少なく感じます。

このJR-60は、短波放送を試聴するには 充分な性能を維持していますが、ハムバンドを聞くにはやはり困難が伴います。高一中二の限界を感じました。